2017年12月1日号 Vol.315

[第84回]
「私は医者だ」という困った客


キャブを転がしてると、お客さんと喧嘩になることがたまにありますが、「俺は医者だ」っていうお客さんとの喧嘩って、結構多いんです。本当に彼らが医者かどうかはわかりませんけど。
11月初めの夜10時ごろ。53丁目と3番街あたりで白人男性の二人組を乗せました。目的地は27丁目の6番街あたり。5番街を南下して、27丁目を右折して西に突っ切ろうとしたところで、歩行者が完全に信号無視をして横断し始めました。こんなのはニューヨークでは日常茶飯事だから、読者の皆さんも現場の様子を容易にご想像いただけると思います。
当然ですが、これをやられると車は信号が「青」なのに前に進めないわけです。僕は客を乗せているしで、クラクションを鳴らして歩行者に「どけ」という態度を示しました。当然です。信号無視しているのは歩行者なんですから。
ところがこの客、目的地に着いて降りる際、「歩行者に向かってクラクションを鳴らすのはいただけないね」と文句を言い出しました。「私は人の命を守る医者なんだ」と偉そうに僕に説教しだすじゃないですか。
カチンときたので僕も言い返したら、このお客、ものすごい剣幕で怒り出しました。「もしお前がさっきのような状況で、私の家族を轢いたら、私はお前を殺すぞ」みたいなことまで言い出す始末。
僕はクラクションを鳴らしただけで、歩行者を無視してスピード出したわけじゃないし、歩行者が身の危険を感じるような行為はしていないんですよ。
この人、今にも殴りかかってきそうな剣幕でした。幸いもう一人の同乗客が支払いを済ませ、連れて行ってくれましたが、あんな癇癪持ちが医者だなんて、本当なら恐ろしいことだと思いました。素人目に見ても普通の精神状態じゃなかったので。
実はこれ、10月末に肺炎で緊急入院して、退院した翌日の出来事。お医者さんに世話になった直後だったので、なんとも皮肉な事件でした。
そういえばこの事件のちょっと前も、おばさん客が後部座席から話しかけてきたと思ったら、「あなた、自分の仕事を嫌ってるわね。私は精神科医なの」ってなことを言われたこともありましたね。
申し訳ないですが、そんなの余計なお世話なんですわ。そういうことをキャブドライバーにわざわざ言ってくるおばさんの方が、精神鑑定が必要なんじゃないですかって思いました。言いませんでしたけど。
こういう自称医者の客って、本当にお医者さんなんでしょうかね。(白石良一)



Copyright (C) 2017 YOMITIME, A Division of Yomitime Inc. All rights reserved