2017年08月11日号 Vol.307

アートと人生の合体か
若い世代に与えた影響
「ロバート・ラウシェンバーグ:仲間たち」


「ロバート・ラウシェンバーグ:仲間たち」展示風景 Photo by Jonathan Muzikar


Robert Rauschenberg and Susan Weil, Untitled (Double Rauschenberg), c. 1950 © 2017 Robert Rauschenberg Foundation


パール通り278番地のスタジオで(1958年3月)。左にコンバインの大作「シャーリーン」(1954)。
Courtesy Robert Rauschenberg Foundation Archives, New York, Photo © Dan Budnik


戦後アメリカ美術を代表する巨匠ロバート・ラウシェンバーグ(1925〜2008)の回顧展。展示は、学生時代の妻スーザン・ウェイルとの共作による「ブループリント」のシリーズに始まっている。その中の1点「ダブル・ラウシェンバーグ」(1950年頃)は、2メートルを超える感光紙に自らの裸体を重ね、ライトを当てたもの。人体の部分が白抜きで浮かび上がり、背景の神秘的な青と好対照をなしている。一見単純なイメージながら、そのスケールと力強さ、パフォーマンス的な要素、絵画でも写真でもないものの存在に目を奪われる。
同じ頃の作品に、白いザラザラした絵肌に数字やアルファベットが鉛筆描きされた「22本の白百合」がある。あるいは、新聞紙や地図の切れ端がコラージュされた画面に白い円が浮かぶ「神の母」。この完成度は何だ!? グラフィティやコンセプチュアル絵画にも通じる、ジャンル崩しの絵画ではないか。しかも美しい。50年代初頭、ニューヨークの美術界が、ポロックやデ・クーニングに代表される抽象表現主義の絵画一辺倒だったことを思えば、ポップな感性自体が新しい。
実際、本展で気がつくことは、ラウシェンバーグといえば「コンバイン」、そのコンバイン作品にたどり着く前に実に多くの作品群があるということだ。家庭用の白ペンキを塗っただけの白の絵画、ラインハルト顔負けの黒の絵画、作家仲間のサイ・トゥオンブリーとのヨーロッパ行脚で制作された写真や箱のオブジェ、泥や金箔を使った絵画。そして、キャンバスに廃品を貼り付け、朱色のペイントで塗り込めた「赤の絵画」のシリーズ。
この赤の絵画を発展させたのが、作家自ら名付けたコンバインのシリーズだ。パール通りのスタジオで撮られたラウシェンバーグのポートレート写真には、初期の大作「シャーリーン」(1954)が写っている。ロフトビルの上下階を分け合ったのは、旗や標的の絵画で後にセンセーションを巻き起こすジャスパー・ジョーンズだった。5歳年下のジャスパーとは、55年から約6年間、互いの一番の批評家として作品を見せ合う仲。売れない間は二人して、ティファニーのショーウィンドウのアルバイトに精を出したという。
コンバインとは文字通り、絵画と彫刻とのドッキング。いや、MoMAのお宝「ベッド」(1955)の場合は、古いシーツにキルトや枕を並べ、絵の具をぶちまけた代物で、アートと人生の合体かも知れない。同様にシンボリックな作品に、アンゴラ山羊の剥製に車のタイヤを組み合わせた「モノグラム」(1955〜59)がある。本展では、ガラスケースに入って展示され、デミアン・ハーストのサメの剥製のお里はここにありといったところ。
そう、若い世代に与えたラウシェンバーグの影響力は計り知れない。前述したウェイルやトゥオンブリー、ジョーンズやジョン・ケージら、作家仲間との共同制作を率先したのも彼のキャリアの特徴だ。シルクスクリーンの手法では、ウォーホルと交流し、60年代後半に始まるE・A・T(アートとテクノロジーの実験)時代の作品では、科学者や技術者と試行錯誤を繰り返した。共作を許すビジョンと寛容さ。何よりも、表現より行為を実践した稀有のアーティストの存在が浮かび上がる。
1970年、ラウシェンバーグはニューヨークを離れ、フロリダ沖のキャプティバ島に移り住む。が、隠遁したわけではない。若手作家を島に招いて、いまでいうレジデンス制作を奨励。80年代には、自ら財団を作って「ROCI(ロッキー)」なる海外交流プロジェクトを設立している。85年、欧米作家として初訪問した中国での大規模展示は、北京のアートシーンに決定的な影響を与えたという。
本展で一つだけ不満があるとすれば、この70年以降のラウシェンバーグの活動の紹介が少ないことだろう。作品数においても展示室の数においても、実に8割が最初の20年に割かれている。この点を補うのが、多彩な小論文で構成された展覧会カタログだ。日本展を含むロッキーの活動については、神戸大学教授の池上裕子の論文に詳しい。となると、また別の切り口でラウシェンバーグ回顧展が登場するかもしれない。そんな期待もできそうだ。(藤森愛実)

Robert Rauschenberg: Among Friends
■9月17日(日)まで
■会場:The Museum of Modern Art
 11 W. 53rd St.
■一般$25、シニア$18、学生$14
 16歳以下無料
www.moma.org


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