2017年05月12日号 Vol.301

「3S」揃ったヒット作
何度も見たいミュージカル
「ミス・サイゴン」


Eva Noblezada and Samuel Li Weintraub (All photos by Matthew Murphy)


Jon Jon Briones



何度も見たくなるミュージカルがあります。
初めて「ミス・サイゴン」をブロードウェイで見たとき、プレイビルにオペラ「蝶々夫人」を下敷きにしたと書いてありひどく憤慨しました。舞台に詳しい人なら、これで結末がわかってしまうからです。ところが、ちょっと落胆しながら観劇を始めて、そんな杞憂は一発で吹き飛んでしまいました。
それほど、力があるミュージカルが、この「ミス・サイゴン」です。上演会場が、91年の初演時と同じ劇場ということも、ファンには嬉しい。
ひさしぶりに観劇した今回、変わったのは、背景に大型液晶ビジョンが配されていること。最新版の「レ・ミゼラブル」(以下レミゼ)でも映像を使った美術セットに賛否両論ありましたが、今回の「ミス・サイゴン」も同じレミゼのスタッフが手掛けています。でも、最新版レミゼほどの違和感はありません。テレビや映画のように劇の途中で、大タイトル「レ・ミゼラブル」が躍り出てくるようなバカな真似はしていません。
逆にオリジナルを実に尊重していて、あまり変わっていないなという印象のほうが強い。ちゃんとヘリコプターも登場します。新作を見に行くつもりではなく、名作を反芻するのが目的な人にも、満足してもらえる出来ばえになっています。

主役のキムを演じるのは、ロンドン版の主役も務めたエヴァ・ノブレザダ。エンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネスとクリス役のアリスター・ブラマーの2人も昨年2月までロンドンで主役を張っていました。映画にもなった「ミス・サイゴン:25周年記念公演・イン・ロンドン」の主役もこの3人です。エヴァとジョン・ジョンはロスの出身、オーディションでロンドン公演の主役を射止めました。この3人の初日公演はロンドンの興行収入の記録を塗り替えるほど、大きな期待を集めたのです。
なので実力は折り紙つき。目をみはる声量と演技力、ダンスが名曲とともに、悲劇を綴っていきます。
「ミス・サイゴン」には物語のスピード感(Speed)と骨太なストーリー(Story)、そして大仕掛けのスペクタクル(Spectacle)、ヒットする3要素「3S」が見事に揃っているのです。
見どころは、やはりキムとクリスの悲恋の駆け引きです。処女ながら娼婦として売られてきたキム。命令で異国の地に派遣されてきた米兵。ベトナム戦争が結びつけた2人の出会いを、運命が引き裂きます。
文化大革命で運命が変わる中国映画「覇王別姫」など、本物の歴史の流れがストーリー中に出て来ると、説得力がものすごく増します。一番の見せ場、基地を捨てて米兵がヘリコプターで逃げ出していくサイゴン陥落のシーンは、史実そのものです。
そして取り残された人々は、またそこで生き続けなければなりません。
戦火と圧制を忌避する多くの人々は、何とかして隣国に逃げ出そうとします。今のシリア情勢と何ら変わりない悲劇を、人間は繰り返していることがわかります。
キムはしたたかなエンジニアの悪知恵を得て、何とかタイに脱出することに成功します。しかし、たどり着いたバンコクでキムにできることは、以前と同じ、体をひさぐことだけでした。待ち受けていた過酷な現実にもめげず、いつかクリスが迎えに来てくれるはず、と健気に待ち続けるキムの姿は、見る人の心を打ちます。
そして、ついにクリスがバンコクにやって来るのです!
劇的な音楽が場面場面で流れ、登場人物の感情の高まりをより強いものにしていく演出効果こそ、このミュージカルをまた見たいという思いに駆り立てる原動力になっていることは間違いありません。
泣きたくなったときにこそ、見に行ってみてください。周囲を気にすることはありません。老若男女、みんなが涙していますから、恥ずかしいことなど少しもありません。(佐藤博之)

Miss Saigon
■会場:Broadway Theatre
 1681 Broadway
■$39〜$165
■上演時間:2時間40分
www.saigonbroadway.com



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